生き方に向き合う時

現在、専門誌にて連載のページを頂いております。

全国の生産者さんからじゃがいもをお送り頂き、それをティスティングして、私の知識で思いつく事柄を執筆、レシピ提案もさせて頂いております。

これまで北海道のじゃがいもと多く関わってきました私ですが、日本全国の素晴らしい生産者の存在を改めて感じ、毎回ハッとする様な衝撃を受けています。生産や品種の世界は広く、皆さんがそれぞれの立場で努力されている事に感動します。

時には私がこれまで関わった事がない温暖な地域特有の品種もありますので、過去に経験した約50品種程のじゃがいもの、新じゃがから熟成期に渡る性質や個性を振り返り、頂いたじゃがいもに向かい合い、その個性を掘り下げていくのですが、若干荷の重さを感じるのは、そこに評価となる点数を付けなければならない事です。
他人に評価を委ねるというのは大変な事です。だからこそ、この企画へエントリーされる生産者さんの勇気に毎回感服し、胸が震える思いでいます。

さて、
その点数ですが、じつはあえて私の中では明確な基準を設けない様にしています。

もちろん、じゃがいもの味が一つの大きな柱となるのは事実です。
ただ、それだけで答えは出せません。
生産の形は無限です。小規模農業や、新規就農で少量多品種栽培(他の野菜を含む)の栽培を試みる生産者さんのじゃがいもと、大規模な作付けをされている生産者さんを同じ土俵に乗せる事は出来ません。また、農協への卸を主体とされる生産者さんと、消費者へ直接販売されている生産者さんでも、その在り方は変わってきます。
編集者さんからの一言や、じゃがいもの入った段ボールを通して伝わる微細なメッセージ、例えそれが目に見えないものであっても、それが存在する限り、汲み取り評価に加えていくのも重要な仕事だと思っています。シンパシーとでも言いましょうか。

その一方で、目に見える、箱のデザイン等の企画や付随する書類も大切です。また、じゃがいもの規格(サイズ)自体は、販売のスタイルと合致しますので、技や意識と切り離して考える必要性があり、必ずしも玉揃えが良いのがベストと考えない場面にも遭遇します。
更に、そのじゃがいも自体を実際に販売に繋げて行けるかといった需要、つまりはマーケットも考慮しますし、そのじゃがいもの価値という意味では、値付けや販売の仕方も考えます。また、次の未来を創る様な「商品力」も重要となります。

 

その上で一番大切なのは、それらを汲み取る私の軸です。
それは、その一箱、そのじゃがいも自体にどんな想いや哲学が込められているかを、如何に私が感じ取るか。
その私自身の在り方が最も大切だと思います。
毎回届く一箱に対し、些細な部分を感じ取れる自分でありたいと思いますし、そうでなければならないとも思います。
その為に、これまでの経験や知識を引き出すことは惜しみません。
勿論、農薬、肥料等をどう使うかといった栽培方法も関係するのですが、私自身はバックグラウンドを気にせず、体感をより楽しむ様にしています。

ある種、農産物に限らず、生産という行為は、生き方であり、自己表現です。
だからこそ、その想いが込められたものに出会った時、私達は心を打たれるのではないでしょうか。
世の中には千差万別、色々なものが存在しますが、誰もその存在を否定する事は出来ません。
ただただ、私達は、そこから発せられるエネルギーや美味しさを感じ、選択するのみです。

この連載を通して私にできる事は、あくまでも、じゃがいもに隠れた真実や希望を探ることであり、評価や批判ではありません。
ですからエントリーされた生産者さんにおきましては、点数は複合的なものでありますので、どうか文章、つまりは総評に比重をお持ち頂きたいと思います。

世の中には、どんなじゃがいもがあっても良いし、生産の仕方があっても良いと思います。
ただ、自分らしく道を歩む事で、おのずと生産したものに結果は現れます。
生産者がご自分独自の想いを通し、その道を歩む事で、生産者色に花開く、“独自の味わい”が生まれるでしょうし、世の中がそうしたもので溢れる様、この連載を通して願っています。

 

村上智華

 

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